理科準備室準備室

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二見瑛理子SS 「海軍カレーは浪漫のかほり」

Q.カレーSSとは何か。
A.偉大なる先人たちの足跡である。

と、言う訳で。

カレーSS、
黎明の第一弾! 「さくらがおか」 ちひろさん!
発展の第二弾! 「UNDER MY SKIN」 wibleさん!
革新の第三弾! 「ゆび先はもう一つの心臓」 オイサンさん!
そして……
便乗の第四弾!は「続きをよむ」から!




丘の上公園の近く、天気のいい日には遠く海まで望めるような見晴らしのいい場所にあるカレー屋の前に、僕と二見さんは立っていた。小ぢんまりとした店の看板には「元祖海軍カレー」とある。

「いい眺めだね。天気もいいし。まさに、”本日天気晴朗ナレドモ波高シ”だ」
「……なにそれ?」
「ええ!?この前話さなかったっけ?」

そもそも、一見というか何回見ても無関係な、二見さんと大日本帝国海軍(のカレー)がつながったのは、いつものたわいもない会話の中でだった。


「ええ!?二見さん知らないの?」
「知らないわよ。そんなこと」
驚く僕の顔を尻目に二見さんは平然と答えた。
「これはね、今から遡ること百有余年……」
「……時の連合艦隊司令部参謀秋山真之は……」
「……とまぁ、最近それを題材にしたドラマをやってるから調べたんだけどね」
「ふーん。好きなの?そういうの」
「まぁ、なんていうか、男のロマンって言うかな……」
「それでこのカレー屋に行きたいと言う訳ね」
「そうそう。まさか輝日南に店があるとはねぇ」
「そうね……。わかったわ、行きましょ。前回のリベンジよ」
「いやまぁ、今回は別に激まずって訳じゃないけどね」

二見さんが知らないと聞いてついつい得意になって、勢いづいて喋ってしまったが、結局二見さんはその提案に乗ってきたので、まぁ結果オーライかな、とその時は思っていた。


「しかし、あなたも物好きね。海軍カレーだなんて」
「ま、まぁね。物好きに付き合わせちゃって悪いね」
「いいのよ。物好きの相手は物好きがするの。フフッ」

しかし今日の二見さんは思いのほか上機嫌だった。
やっぱりまぁ、結果オーライだな、うん。


店の中に入ると、少し暗めの照明に照らされて、穏やかな雰囲気だった。
木目調で帆船の中にいるような感じに仕立てていて内装にも凝っている。さらに壁には救命うきわや各国の旗まで掛かっていた。が、客がいない。二人が座ったカウンターの隣の席には会社員風の男性がいたが、入れ替わるようにして席を立った。
彼が店主とおぼしき老人に軽く会釈をしながら店を出て行ってしまうと、店内の客は今度こそ僕たち二人きりになってしまった。

「全然いないわね、人」
隣に座る二見さんが小声で囁いた。
「平日の昼間だしね」
「まぁその方が気楽でいいわ。混んでるより」
「ふふっ、そうだね」

二見さんならそう言うと思っていたのが当たってちょっとにやけてしまったが、二見さんは気付いていないようだった。

「ご注文は何に致しましょう」
頃合いを見計らって老店主が話しかけてきた。
「この、元祖海軍カレーで。二見さんはどうする?」
「私も同じもので」
「かしこまりました」


「ねえ」
老人が厨房に引っ込んだところでまた二見さんが話しかけてきた。
「ん?」
「海軍カレーって普通のと何が違うの?」
「さぁ……。バランスのいい食事にすることで脚気とかを防止しようとしたらしいから、栄養はあるんじゃないかな」
「脚気、か」
「艦隊勤務にしても航海にしても長いからね」
「……私にはとても無理ね。アメリカへ行くにしても、当時の航海にはとても耐えられそうにないわ」
「客船は流石に大丈夫なんじゃないかなぁ。まぁ今なら飛行機でひとっ飛びだけどね」
「ふふ、そうね」
「グローバルな世の中だねぇ」
「そうね、フフッ」

急に二見さんが笑い出したので僕は少し焦ってすぐに聞き返した。

「えっ、僕なんか変なこと言った?」
「いいえ、ごめんなさい。でも、急に小難しい顔でしんみりそんなこと言うから」
「でも、その通りでしょ?」
「ええ。だから私もアメリカに行くの。より良い研究環境を求めて」
二見さんの口調には強い決意が滲んでいた。
「誰が何と言おうとね。ただ……」
「……おっと、それ以上は言わせないよ、流石に。……僕も二見さんとずっと一緒いたいし、二見さんが行くところならどこにでも行くよ。アメリカでもアジアでもアフリカでも」
「ありがとう。相原……。私、嬉しいわ」
「二見さん……」
「……フフッ」
「ん?」
「ずるいわね、人に言わせないでおいてすぐ後に自分だけ言うなんて」
「え、あ、ははは……」

向き合ってだんだん近づきながら、お互いのおでこがくっつこうとまでしていたところに、先ほどの老店主が戻ってきて、僕たちはさっと元の位置に戻った。

「お待たせしました。元祖海軍カレーです」
老店主は何食わぬ顔でカレーを2皿差し出した。
噂の海軍カレーは、ぱっと見特に違和感のない普通のカレーライスだった。ルーは普通のより少し黄色っぽいけど、他はさして変わらないように見える。匂いも普通のカレーそのものだ。スパイスが効いていて食欲をそそられるあの匂い。

「た、食べよっか」
「ええ」
「結構普通だね。まそりゃそうか。では、いただきます」
さっきまでのドキドキがおさまりきらず、少し早口になりながらそう言った。





「いただきます」
スプーンに一掬い、口に運ぶ。
「ん!」
思っていたより味が違う!変な言い方ではあるが一口食べてみてそう思った。普通のカレーとはちょっと味付けが違っていて、和風っぽいとでも言えばいいのだろうか。比較的マイルドだが、味がしつこくない。さらさらといけてしまう。そして後からピリッときて水が欲しくなる。水、水……。
そこのお水取って、と言おうとして隣を見ると、相原はしげしげとこちらを眺めていた。
「あら、相原は食べないの?」
「いや、二見さんが何も調味料かけないで食べるのって久しぶりに見た気がするなぁと思って」
「あっ……。私、忘れてたわ……」

思わず目を丸くしてしまった。
相原はそれを見て満足そうに微笑んだ。

「それだけ美味しかったってことだね」
「ええ……。こんなの、なるみの家のうどん以来よ」
本当に驚いてしまい、私はしばらくの間、口元に手を当てたままカレーライスと
相原を交互に見ていた。
「僕も冷めないうちに食べなきゃ」

そのあとは二人とも黙々と食べ進めてあっという間に食べ終えてしまった。


「ご満足いただけましたか?」
「ええ。とても美味しかったです」
「それはよかった」

食事を終えた頃合いに老店主が話し掛けてきた。
徐々に克服してきてはいるけれど、まだまだ人付き合いに慣れない私の代わりに
彼が応対してくれた。私は二人の会話を聞いている。

「元祖と言うだけあって普通のカレーと結構風味が違うんですね」
「明治41年当時の海軍のレシピそのままにメニューを再現しております」
「しかしこのへんで海軍カレーなんて珍しいですよね」
「ええまぁ。元はと言えば、父と祖父が海軍軍人でしてね。そのせいもありますね」
「お祖父さん、というとそれこそ100年くらい前になりますかね?」
「そうですね。日露戦争で戦艦三笠に乗っていた時の事とか、良く聞かされましたよ」
「それはすごい!最近日露戦争を題材にしたドラマをやってますけど、まさに歴史の証人のようですね」
「最近はそれにちなんでいらっしゃるお客様も多いようで、ありがたいことです」
「僕も例によってそれですね」
「そうでしたか。うちは海軍一家でしたから他にも色々聞いてはおりますが」
「一家そろって海軍軍人だったのですか?」
「ええ。父の兄弟や、私の従兄弟も年長の者は皆そうでした」
「ということは時代が時代ならあなたも……」
「あ、いやそれは無かったでしょうね。私、海嫌いでしたから」
「それはまたどうして?」
「終戦間際、内地へ帰る途中乗っていた船が沈んで、脱出するときに溺れかけましてね……はは、トラウマだったのですよ」
「えっ……」
「昔の話ですがね」
「でも……、なんだかすみません」
「いいんですよ。今はこうして海の見える丘で海軍カレーなんぞ作っておりますし」
「今は克服された、と」
「ええ。血は抗えない、ということです」


相原の持っている人とのコミュニケーション能力。私に一番欠けているものだ。
そんな彼のお陰でかつて私が心を開くことが出来たように、今あの老人も相原にそんな話を聞かせる気になったのだろうか。それとも単に、彼の十八番の昔話なのだろうか。
それは私にはわからなかったが、こういう時に私は彼に嫉妬もし、同時に、心を開くことを許してくれた彼から離れられなくなっていくのを自覚して、くすぐったくなる。


店を出ると、さっきまでは吹いていなかった風が肌を刺した。晴れてはいても流石に寒くて、彼に寄り添うようにした。彼が体を固くするのが何となくわかってちょっと面白い。

そういえば、結局お金は半ば無理矢理に彼が払ってくれた。これも男のロマンだという。


「変な人だったわね」
「あの人?そう?」
「ええ。だってトラウマは克服した、って言ってたのにこんなに遠いところからおっかなびっくり海を覗くようにしているじゃない」
「なるほど。そういえばそうだね」
「いっそ海の家でも開けばいいのよ」
「でも、これもあの人の浪漫なんじゃないかな」
「カレーを作ることが?」
「"海軍"カレーを作ることが、ね」


「それにほら、ここから見る海も穏やかでいいよ」
「それもそうね」

遠くに小さく海が見えた。
海には、寒い冬の日にもかかわらず、白いヨットが一叟浮かんでいた。

「夏が待ち遠しいなぁ」
「……私も。ふふっ、夏が待ち遠しいなんて、はじめてよ」

どうせ相原のことだから、水着姿が見たいだの、海に行こうだのと言うのだろう。
それなら逆に、新しい水着をあらかじめ選んでおいて、あっと驚かせてやろうかしら。

今までだったらありえなかったこと……、こんな風にして水着の流行を気にしようとしたりまだまだ遠い夏のことを考えたり……。
そういう初めてのことが皆、新鮮で、楽しくて、そして愛おしい。
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えりりんSS | コメント:2 | トラックバック:0 |
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コメント

呼ばれてないのにジャジャジャジャン。
革新の3rd Bread(違、オイサンです。
遅まきながら感想など。
 
カレーから海へ、浪漫へという展開の仕方がお見事で、ラスト、眩しそうに遠い夏の海に思いをはせる二見さんの横顔が一枚絵のように浮かんできました。
 
やがて海の向こうに自分の本当の価値を求めることが二見さんの浪漫なのであって、その浪漫には相原の存在が欠かせない、というお話なのでしょうね。
 
そーいえば、「男の浪漫」という言葉はよく耳にしますが、「女の浪漫」というのをあまり聞かないのは……やっぱり女性が、傾向として現実的だからなのでしょうかねえ。
 
前半の相原主観の部分よりも後半の二見さん主観の方が、イキイキとしているような印象を受けましたが、どっちの方が書きやすい、などあるんでしょうか。
あと、もしお店にモデルなどおありでしたら教えて戴けると……おいしいですw
 
ほなまた。
次回作も期待しております。
しばらくはアレでしょうけど。
 
オイサンでした。
2011-02-02 Wed 11:24 | URL | ikas2nd [ 編集 ]
> 呼ばれてないのにジャジャジャジャン。
> 革新の3rd Bread(違、オイサンです。
いつもありがとうございます。本当に。
 
> やがて海の向こうに自分の本当の価値を求めることが二見さんの浪漫なのであって、その浪漫には相原の存在が欠かせない、というお話なのでしょうね。
ちまちました男たちのROMANをちまちま書いて二見さんのでっかい夢にどどーんと思いを馳せるという感じだったりなかったり……w

> そーいえば、「男の浪漫」という言葉はよく耳にしますが、「女の浪漫」というのをあまり聞かないのは……やっぱり女性が、傾向として現実的だからなのでしょうかねえ。
女は浪漫を持つべきものではなかったからではないかと思います。そういう意味では男の浪漫という言葉はちょっとアレかもしれませんね。
 
> 前半の相原主観の部分よりも後半の二見さん主観の方が、イキイキとしているような印象を受けましたが、どっちの方が書きやすい、などあるんでしょうか。
そこらへんは結構迷っている段階ですね。どの視点から描くのが適切というかやりやすいのか・・・。
まぁしばらくは固定化せずにやっていこうかと思います。

> あと、もしお店にモデルなどおありでしたら教えて戴けると……おいしいですw
「魚藍亭のよこすか海軍カレー館」です。横須賀駅から徒歩10分くらい……だったかなぁ。
友人と横須賀に戦艦三笠を見に行った時にたまたま立ち寄ったんですけどね。
ちなみに海は全く見えませんw
 
> ほなまた。
> 次回作も期待しております。
> しばらくはアレでしょうけど。  
> オイサンでした。
今後ともよろしくです。
2011-02-09 Wed 00:51 | URL | 3toku [ 編集 ]

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